iVene’s diary

世界のクワガタ観察日記

トリスティスチリハネナシクワガタの色々

 チリ中央に分布を広げるチリハネナシクワガタ属、そのなかでも最北RM RegionとVI RegionにApterodorcus tristis (Deyrolle in Parry, 1870):トリスティスチリハネナシクワガタが生息し、普遍的有名種であるA. bacchusとは混生しないとされる。

https://unsm-ento.unl.edu/Guide/Scarabaeoidea/Lucanidae/LUC/APT/tristis.html

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Apterodorcus tristis (Deyrolle in Parry, 1870))

 A. tristisは1945年〜1960年のBeneshによる検討で基準種A. bacchus (Hope in Westwood, 1845)のシノニムとなっていたが、Mondaca E., J., and M.J. Paulsen. 2008により有効種であると久方ぶりに復活された。Mondaca氏とPaulsen氏による論文中にはA. tristisに関する分類の歴史がまとめられる。

https://www.researchgate.net/publication/292852571_Revision_of_the_genus_Apterodorcus_Arrow_Coleoptera_Lucanidae_Lucaninae_of_southern_South_America

 Mondaca氏とPaulsen氏はMNHNにある"チリ産"とラベルされたA. tristisのタイプ標本の検討を行い、A. bacchusとは異なる有効な種であろうと判断された。JMECでA. tristisのタイプに一致する個体群を見出され、詳しい産地情報を参照された。A. bacchusとの産地間距離は90kmと記述される。

 学名有効性復活の論文が出た際、私などは其の生物学的特徴の差異に感心したが、とはいえA. tristisの識別は画像を一見しただけでは少々難易度が高くあった。当時は間違いなくA. tristisと言える実物個体群がなかなか見当たらず分類の理解に時間をかけざるを得なかった。希少ゆえの難しさである。

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Apterodorcus bacchus (Hope in Westwood, 1845))

 分類屋の友人とも度々問題視したが、学名の有効性が論じられた後も基準種A. bacchus個体群を"A. tristis"と誤同定して高額出品する標本商が少なからずいた。どこから仕入れたのか聞けば、チェコやフランス等ヨーロッパの業者経由だそうで同定は踏襲しただけという話だった。

 分布状況の詳細については後述するが、悪質な詐欺となると"A. tristisしか居ない産地データ"を示す捏造ラベルがA. bacchusに付され"A. tristis"であるとして売られているものもオンライン上で見られた。当時、A. bacchusは通常サイズ1頭あたり数百円〜数千円付近で売られていたが、"A. tristis"は1頭あたり数万円で取引されたのだった。「見分け方の難しい虫は詐欺の温床になりやすい」其の教訓は虫業界の永きに亘りイタチごっこで活きている。故に資料入手時には危機意識が必須である。

 もし当記事の読者で「"A. tristis"として入手した個体がある」という人は、誰かに説明する前によくよく調べられたい。

https://www.biolib.cz/cz/image/id261260/

(逆に"A. bacchus"と誤同定されるA. tristisもある)

 手元にある個体群は、チリから直輸入した日本の輸入業者ルートと、自身でチリ人採集人から入手した直ルートの2ルートで、其れ等は見事にA. tristisである。A. tristisの分布域周辺は変わっており、一部には原始的なクワガタムシ科既知種Sclerostomulus nitidus (Benesh, 1955)が局所分布する。

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Sclerostomulus nitidus。雌雄差が殆ど見られず外観はチビクワガタ類に似るが、交尾器形態はネブトクワガタ類らしくもある。局所分布する原始的な種。過去には近縁祖先種が広大な分布をしていた時代もあったと考えられる)

http://www.inaturalist.org/observations/98515754 http://www.inaturalist.org/observations/46981178Sclerostomulus nitidus生体)

 しかし現在は環境破壊や商業目的の乱獲が懸念され採集規制がなされている。A. tristisは比較的多く見られる産地の"自然保護区・国立保護区"規制と、クワガタムシ希少種の場合は原産国チリでの"絶滅危機種(Threatened)への分類"規制の二重規制がある。

 現在、トリスティスチリハネナシクワガタは原産国チリ政府環境省管轄のRCE (Reglamento de Clasificación de Especies)に従って絶滅危惧種:EN(Endangered)に分類指定されており資料観察が容易ではない。原産地での調査では個体数が少ないとの事だった。確かに滅多に見られない。

https://clasificacionespecies.mma.gob.cl/wp-content/uploads/2019/10/Apterodorcus_-tristis_11RCE_03_PAC.pdf

https://consultasciudadanas.mma.gob.cl/storage/records/8LC1RPgBNgyHMhlrSDgMxh8JCR76U88MgR73uyGx.pdf

 なおSclerostomulus nitidusもRCEに従って近絶滅種:CR(Critically Endangered)に分類される。ENよりCRの方が厳しい。分布域がごく限られるから採集されやすく、個体数が少ないから採集圧が更に心配であるとの事。

https://clasificacionespecies.mma.gob.cl/wp-content/uploads/2019/10/Sclerostomulus_nitidus_11RCE_04_PAC.pdf

 チリハネナシクワガタ属既知2分類群の判別法として、♂大顎背面の特に基部付近♂大顎内歯数の傾向♀の前胸背前縁付近の2コブ有無の差異、また上翅肩部突起の突出具合などで見分けられる。A. tristisの♂交尾器は基節が比較的肥大したような形態、♀交尾器は尾片の先端付近硬質部位が比較的細い。現状の観察では、此れ等の判別点で100%有効な相関を示していたため"2分類群間の関係性は別種である"との理解に私は異論ない。

http://www.coleoptera-neotropical.org/paginas/3nz_familias/SCARABAEOIDEA/1sp/1Lucanidae/Apterodorcus-tristis.html

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A. tristis♂個体の大顎背面)

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A. bacchus♂個体の大顎背面)

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(♀前半身背面。左:状態がよくないがA. tristis、右:A. bacchus。前胸背前縁付近と肩部を見る)

 iNaturalist等では原産地でのA. tristis生体観察が記録される。 A. bacchusとは生息域が被らず、現地で混生が確認された事は無い。

http://www.inaturalist.org/observations/49143272 http://www.inaturalist.org/observations/28417854 http://www.inaturalist.org/observations/73037845 http://www.inaturalist.org/observations/26130777 http://www.inaturalist.org/observations/13218968 https://www.flickr.com/photos/lucianativa/3913457371

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(「Mondaca E., J., and M.J. Paulsen. 2008. Revision of the genus Apterodorcus Arrow (Coleoptera: Lucanidae: Lucaninae) of southern South America. Zootaxa 1922: 21-32.」より引用抜粋)

 低〜中標高に分布しRio Mataquito river辺りで2種の分布域は分断されているように見える。チリハネナシクワガタ属2種は飛ばないため、最北部の個体群のみだが特化したのだろうと考えられる。

 広く分布するなかで、一部エリアのみで特化する例は様々な分類群で見られる。膨大な事が判明してきた此の広大な地球自然界でも、全く期待していなかった新地開拓で新たな発見はまだまだ期待出来る事を思い出させてくれる。様々な人との関わりの過去あれど生物学的には最も面白い分類群の一つ。

【References】

Mondaca E., J., and M.J. Paulsen. 2008. Revision of the genus Apterodorcus Arrow (Coleoptera: Lucanidae: Lucaninae) of southern South America. Zootaxa 1922: 21-32.

Hope, F. W., & Westwood, J. O. 1845. A Catalogue of the Lucanoid Coleoptera in the collection of the Rev.F.W.Hope, together with descriptions of the new species therein contained. J.C.Bridgewater, South Molton Street, London (editor):1-31.

Parry, F.J.S. 1870. A revised catalogue of the Lucanoid Coleoptera with remarks on the nomenclature, and descriptions of new species. Transactions of the Royal Entomological Society of London :53-118.

Arrow, G.J. 1943. On the genera and nomenclature of the lucanid Coleoptera, and descriptions of a few new species. Proceedings of the Royal Entomological Society of London, (B) 12(9-10):133-143.

Benesh, B. 1945. Some remarks on the genus Apterodorcus Arrow (Coleoptera: Lucanidae). Entomological News. 56: 229-234.

Benesh, B. 1955. Some notes on Neotropical stagbeetles. Entomological News 66:97-104.

Benesh, B. 1960. Coleopterorum Catalogus Supplementa, Pars 8: Lucanidea (sic). W. Junk, Berlin. 178 pp.

【追記】

 規制される虫は調べる事が大変だが仕方がない。規制に対する考え方は様々あり、人によってはコレクションが高騰する事を喜ぶ。私の場合だと資料追加が難しくなる事を残念と思うが諦めるしかないとも考える。

 生物採集や流通の規制はワシントン条約が強力な規制として象徴的で、大抵の規制事由は此の条文の理念に近しい。

ワシントン条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約))は、自然のかけがえのない一部をなす野生動植物の一定の種が過度に国際取引に利用されることのないようこれらの種を保護することを目的とした条約です。

https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_exandim/06_washington/index.html

 しかし虫業界に関連する規制については何かと論争がある。此の話題に関する論争も何か不毛味がある。

http://blog.livedoor.jp/takosaburou/archives/50858956.html

https://togetter.com/li/1972533

 理不尽な環境問題の話題も見られ、難しい気分になる。外資系利権との癒着も垣間見える。規制には賛成出来る部分と賛成出来ない部分が混在していやすい。考えれば考えるほど難しい。

https://japan-forward.com/japanese/37645/?amp

 大規模な自然破壊は事業者が経済活動の為に行う。私自身、ネブトクワガタやミヤマクワガタノコギリクワガタヒラタクワガタなどを採集していた森林も今は軒並み宅地になり、クワガタムシは残された僅かな自然にコクワガタを少し見つけられるくらいになってしまった。。しかし大規模な森林伐採など虫屋は普通やらないから、今回は考察を割愛する。

http://takahata521.livedoor.blog/archives/14725884.html

 本文でも言及したSclerostomulus nitidusに関しては以下に引用する2020年の報文にあるように、更に厳しい規制の必要性が呼び掛けられる。

1. 再発見はめでたいことですが、公表する際には注意が必要です。これまで絶滅したと思われていた採集可能種は一般に希少であり、絶滅するまで個体が採集されるたびに商品価値が継続的に上昇します。

2. 2012年に再発見されたばかりの甲虫Sclerostomulus nitidus (Benesh, 1955) は、世界的にチリのCerro Poquiなる唯一の山に生息している個体群のみ知られます。

3. 年間146本の枯れ木をサンプリングした結果、丸太あたりのSclerostomulus nitidus生息数は5年間(2013-2018)で93%減少、少なくとも1個体が見つかる確率は線形傾向で2030年までにゼロに近づくと推定されました。

4. Sclerostomulus nitidusは地理的分布域が限定されているため、チリの法律では絶滅危惧種に指定されていますが、私たちは、進行中の個体数減少の観察結果と個体発見確率の予測から、新たにIUCN Red Listingの必要性を提案しています。

5. また現地では、Sclerostomulus nitidusオンライン取引の証拠となるような採集が行われているのを目撃しています。したがって、S. nitidus生態の研究を補完するために、取引された種や売買された種に関する国内および国際的な政策の統一に焦点を当てることを提案します。

6. 国の政策は最新かもしれませんが、ワシントン条約のような野生生物の取引に関する国際的な法律は時代遅れです。国内政策と国際政策を両立させることで、最近再発見された種が最も被害を受けやすい無制限の取引や売買を阻止するための透明性と監視プロセスについて、宅配業者と真剣に話し合う可能性が出てきます。

(和訳)

https://resjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/icad.12445

 ワシントン条約など生ぬるい。もっと厳しく規制せい。」とはなかなか豪快な呼び掛けだが、確かに絶滅危惧種の流通に国際取引も国内取引も個体数減少要因として差はあまり無い(自然界での絶対数が少ないと考えれば少量採集すら影響する)。採集済の個体群はともかくも、"これから先"の乱獲の主因になりそうな"過度な売買を促す所作"を抑止したいのが規制の持つそもそもの理念。

http://www.trafficj.org/press/animal/n20100323news.html

 規制よりも早く殆ど誰も知らないような時点で入手しておかねば資料観察が難しいとは、まるで発明者にしか持つ事が許されない特許のようである。

http://newshonpo.blog.fc2.com/blog-entry-76.html

 私の場合だと、こういった貴重生物資料と理解した個体群を不特定多数の手に渡るような所作は決してしない。放出okでも友人達など信用している方々と虫同士の交換をするくらいに留める。

 規制に関わる虫屋側の問題点として"乱獲"がよく挙げられる。不必要に大量に採集したり、採集場を荒らしたり、よろしくない事が乱獲によりやられる。密猟や密輸も問題だが、乱獲は法整備されていない時点にも起こりうるから後々の規制厳格化の理由になる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%B1%E7%8D%B2

 "採集圧"という言葉を考えたときに、其れが有るか無いか考えれば、物理的には「有る」としか言えない。一方で"無い"と言う人達もいるが其れは"採集圧に耐え切れる"という意味合いかと察する。

 希少生物を資料として考えた場合、自然界に存在するなかで少しくらいは採集しないと詳しい事を調べられない。しかし"どれくらいの頻度と量の採集して良いものか"、其の部分で考え無しに乱獲する人達がいると「採集圧は有る」と考えざるを得ない。

 自然界に特定の分類群がどれくらい数量が存在しているか、主観的な見込み以外に数え方が無いから難しい。しかし乱獲なんてしない方が良さそうである事くらいは理解出来る。

 研究目的の採集に乱獲の必要性は無い。研究者は"自然界の個体数を減らしてしまうのは将来の為にならないから乱獲しないでおこう"と普通は考える。人海戦術を使っても大抵は必要分に抑えられる。地道が一番良い。

 昔から標本商をやっている友人も好きでやっているとはいえ長年に亘り虫達の殺生に関わっているため"虫達の呪い"を畏れられ、資料群を大切に扱われる。

 では乱獲をする人達というのは誰なのか、どういう目的で、どういう立場の人間が乱獲をするのか考える。大抵の一般人も不要な乱獲はしない。自然界に対して紳士的でない乱獲をしかねないような人達、乱獲を促している人達は、消去法で考えていくと見えてくる。

https://twitter.com/kureshinbotbot/status/897311935108071425?s=46&t=Y3LRnvijz8LLnPpf1u3zBg

https://ideasforgood.jp/issue/ivory-trade/

 象牙やオランウータンなどに関連する前例を見ても、生物規制について"売買"に問題がある事が最も目立つ。森林伐採も問題だが、乱獲者が沢山いれば"塵も積もれば山となる"で、生物種の個体数減少は環境破壊と言えるくらいに影響を及ぼしかねない。

https://w.atwiki.jp/arashishinbun/sp/

 乱獲業者の需要になりそうな"昆虫コレクター"というとフィクションドラマ「相棒」の登場人物である"染井さん"のイメージが強くある。彼のような挙動の熱狂的コレクターを現実で見られる事は普通無いが、一般的なイメージはあのようにある。

https://unatia.net/aibou-season4-14/?amp=1

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%91%E5%B9%B4%E3%81%AE%E6%97%A5%E3%81%AE%E6%80%9D%E3%81%84%E5%87%BA

(或いはコレか)

 19世紀の大家アルフレッド・R・ウォレス氏は不安定な生活ながらあらゆる外国未開地を開拓され、成果の生物体資料と著書を売る事で費用を集められたとされる。勿論其の時代での「乱獲」と言われる程の短期大量採集はされていない。他者との調査地競合をせず、仲間と共に長年をかけて様々な僻地に入域しつつコツコツと必要分のみ先駆的に集められている。時と場所によるが、此の方式が最も安定と信頼がある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%AC%E3%82%B9

 しかし堅気とはとても思えない商売をしている人達も混じって見られる。仮想通貨的な商法や転売は"乱獲など不要"とする業界健全化とは逆方向であると懸念する。

https://twitter.com/moukon_genius/status/1592004085460643841?s=46&t=JPxASBxTDtRlTJxZUqRXrw

 様々な事を考慮すると"絶滅危惧種として指定あるいは規制される野生生物個体群を不特定多数向けに短期転売"みたく違法〜違法スレスレの売買は厳しい規制の必要性を特に高めると理解出来る(飼育規制にも連鎖しうる)。過去には日本国内でも警察沙汰すらあった。そういう転売をする人達は、実は自己犠牲に扮した"隠れ規制賛成派"なのかもしれないが、いずれにしても様々な社会倫理に合わない。乱獲を促しかねないような売人が環境破壊を非難しても説得力があまり無い。寧ろ前述したような「ワシントン条約は時代遅れ。更なる厳罰を。」という話の説得力を一層強くする。

http://blog.esuteru.com/comment/9812111/172

https://www.t-nakamura-law.com/column/%E8%BB%A2%E5%A3%B2%E8%A1%8C%E7%82%BA%E3%81%A7%E9%80%AE%E6%8D%95%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%9F%E3%82%89%EF%BD%9C%E9%81%95%E6%B3%95%E8%BB%A2%E5%A3%B2%E3%81%AE%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%84%E5%88%91

https://togetter.com/li/1960975

https://agora-web.jp/archives/221113055557.html

 "研究をしているから乱獲して良い"ともならない。ABS問題の推進はコンタミ抑制・乱獲抑制に役立っている。これではどうしても"規制が有った方が良い世の中"になる。規制が有れば乱獲による個体数減少を未然に抑制出来るから。

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/204877

 しかし規制された分類群は暴騰しやすい(マルガタクワガタ属のように)。"ザル法による規制"は乱獲を野放しにしながら高額売買を促す。野放しにされているメガソーラー事業による森林伐採等で生物の個体数が減れば、"希少性"が売り文句になるような生物種が乱獲される連鎖に繋がる。

 生物採集をしたくて規制に反対するのなら、乱獲について考えねば不条理な主張にしかならない。"乱獲を促す流通"も並行して批判せねば筋が通らない。

 真理を追究する人間どうしなら、一時は見解の相違があっても、いずれ分かり合える。

 だが、利権を追求する人間とは、利害が一致しない限り永遠に分かり合えない。

https://twitter.com/hkakeya/status/1591576518274449408?s=46&t=YpqwAP9rZe32SjoJaoYLXA

 しかし、現状の世の中を鑑みるに規制が増えても解除される未来はあまり見えない。

https://www.jijitsu.net/entry/Kuroiwa-Kusatsu-kakiokoshi-kaiken

クロサワオニクワガタの色々

 クロサワオニクワガタ:Prismognathus kurosawai Fujita et Ichikawa, 1986はタイ北部ドイ・インタノン国立公園の標高2300m辺りから見つかっており、現在のタイ国内の産地では保護規制が敷かれ観察が難しい。

 原記載にて"The specific name of this new lucanid was dedicated to Dr. Yoshihiko KUROSAWA who is the best specialist of Asian lucanid beetles."、つまり種小名は黒沢良彦博士に献名された事が解る説明がなされる。

 原記載では和名を"キバナガツヤオニクワガタ"と記述されるが、今では"クロサワオニクワガタ"と呼ばれる事の方が多い。

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(近似する別種が幾つかあるが、クロサワオニは比較的光沢が強く顎が短い形態比率をしている。タイに分布するオニクワガタ属種は今のところクロサワオニ以外には見つかっていない)

 此の顎形態のオニクワガタはEligmodontus Houlbert, 1915の属に分類された事もあり、雌雄共に頭部や顎程度だが特化が安定した発生形態のグループだから亜属名として採用しても良さそうと私は考える。

 また雲南省南西部の隴川県から見つかっている中華鍬甲3掲載の"Prismgnathus sukkitorum Nagai, 2005"と同定された個体等はクロサワオニクワガタに酷似しており実際にはそうなのかもしれない(記述と他図示から読み取れるように"dissected"な個体ではないらしく交尾器の図示が無いが、研究が進歩するのを期待したい)。雲南省の隴川県はミャンマー領を挟むが、タイのドイ・インタノンのちょうど北辺りにある。スキットオルムオニクワガタは基準産地が隴川県から遠く離れる。既知2分類群間の♂の差異は主に頭部の眼角で見分けられ、交尾器は陰茎部のサイズが大きく異なる。

 インドシナの地域は巨大な構成をする山塊が疎に点在し、その山塊ごとに生物層が特化している例が多い。広域のなか割と高標高の様々な場所で点々と分化があり、そんなに個体数が集まらない種群は調査は大変である。

 しかし生物種が自然界でどのように分化したのかを類推するなど、そういった事を学べる意味では最も面白い分類群の一つ。

【References】

Fujita, H. & Ichikawa, T. 1986. A new species of the genus Prismognathus from Northern Thailand. Ueno S.I.(ed.) Entomological Papers Presented to Yoshihiko Kurosawa on the Occasion of His Retirement. Coleopterist's Association of Japan, Tokyo:1-342 (177-179). http://coleoptera.sakura.ne.jp/special-publication/Y-Kurosawa-papers1986.pdf

Nagai, S. 2005. Notes on some SE Asian Stag-beetles, with descriptions of several new taxa (4). Gekkan-Mushi 414:32-38.

Huang, H., and C.-C. Chen. 2017. Stag beetles of China, Vol. 3. Formosa Ecological Company; Taipei, Taiwan. 524 p.

Houlbert, C. 1915. Descriptions de quelques Lucanides nouveaux. Insecta, revue illustree d’Entomologie, Rennes 5:17-23.

【追記】

 一般的な観察として多い"虫の形を俯瞰するのみ"では実際には考察に不足がある事が多い。産地データに関する等高線地図や航空写真地図を並べてみると"どういった分布や特化をしているのか"理解が進む。

 シンプルな地図でも河川や峰々の配置が分かる事もあるが、少しでも詳細に進めて考えてみれば新たな感動が其処に待っている。

 しかしオニクワガタ属は規制の有無に関係無く認知度の低い種が多い。

ホリドゥスソリアシサビクワガタの色々

 フィリピンには認知度の低い種が結構ある。ルソン島のホリドゥスソリアシサビクワガタ:Gnaphaloryx horridus (Benesh,1950)は其の内の1種で、昔は低画質ながらフィリピンの公的機関らしき場所が運営していたネットページで見る事が出来たのだが、今は探しても見当たらない。代替ページもあまり無いので此処に書き残す。

 分布域はルソン島中央、タイプ産地はNueva Vizcayaで、他データにMountain Province、Calinga、Ifgaoなど、この辺りの山塊に集中しているという意味でデータの再現性が高い。おそらく特定の標高にある環境を選ぶのだろう。

f:id:iVene:20220922232058j:image(フィリピン・ルソン島産。しかし此の種は状態の良い個体だと脂が沢山出てくる。画像の個体群はアセトンで脱脂しても数ヶ月後にはまた出てきたので4回繰り返した)

f:id:iVene:20220922232104j:image(フィリピン・ルソン島産。やや汚れのベタつき残る個体。毛束位置がランダムであるのは部分的に脱毛した為に部分的に残存したからと考えられる)

 ソリアシサビクワガタの仲間は、個体により泥の汚れが乾燥し粉を塗したような色になっている事がある。発生後期の個体群は破損度のコンディションが気になるとともに、落ちにくい汚れによる見た目の変容もありうる。生物学的形態と非生物学的形態は見間違いやすいから、予見して観察・考察する(日干しや薬品など死虫処理の方法で変わる事もある)。こういうのは顕微鏡下で観たり湿らせたり触ったり光の当て方を変えたりすれば、なんとなくの感覚を理解出来てくる。

 発生初期の個体群は破損も汚れも少ないから、状態の良い個体としての参照がされやすい。別の種の話だが、状態の良い個体資料が欲しい人によっては、敢えて飼育個体群(WF1〜WF2)の成虫を身体の構造が固まったところで〆て資料にするというのを聞いた事もある。

 このように黒っぽい見た目の為か、最初はAegus属に分類され、後にGnaphaloryx属に分類された。1950年代の研究事情を考えると"時代考証的"な事を色々考えられる。スケッチは精密だが身体の一部のみ(原記載には上翅構造の記述も見られない)。タイプ個体は米国のフィールド自然史博物館に在る。

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(「Benesh, B. 1950. Descriptions of new species of stag beetles from Formosa and the Philippines. The Pan-Pacific Entomologist 26(1):11-18.」より引用図)

 なお同文献で記載されるGnaphaloryx haddeni Benesh,1950がフィリピンの各島から見つかっているという説があるが、其方は原記載図を見る限り頭部突起が顕著に発達しているため、諸々の図鑑でそう同定されるネグロス島産などは誤同定の可能性が高い。

 しかし手元のホリドゥスソリアシサビの資料については長年かけて2♂1♀と少ない。なかなかに苦労した気分だったので分類屋の友人に報告すると「昔(90年代)はまぁまぁ数を見たけどねぇ」とコメントされた。博物館では滅多に見ないが、昔からの大収集家の所にはいくつかずつある。私はホリドゥスソリアシサビについて注目したタイミングが遅れたため知らない事が多く、私的な経験上から"希少種?"と考えていたが、そのような"固定概念的な考え"を改めざるを得なかった。生き物の世界は反証可能性が様々な所でありえる。原産地ではそこそこいるらしい。単純に採集されないエリアにいるだけだった。

 またミンダナオ島産に亜種記載があるが、体表の構造など顕微鏡下で見比べると大きく異なる。生息地が海峡で離れ、なお且つ"両種"それぞれで私自身未だ充分な観察量では無いため結論を知らないが、手元の資料群では2分類群間に交尾器の大きな形態差があるように見えるので別種説も視野に入っている。

f:id:iVene:20220922232224j:imageミンダナオ島産)

 資料の状態を考えるという点では、此のグループのように体外の状態だったり別だと体内だったりして難しい事もあるが、基本的な作業を一通り繰り返し経験しておくと解る事も多い。様々な変異が理解出来る生物分類学的にも面白いが、教訓を得るには最も良いグループの一つ。

【Reference】

Benesh, B. 1950. Descriptions of new species of stag beetles from Formosa and the Philippines. The Pan-Pacific Entomologist 26(1):11-18.

【追記】

 フィリピンというと近年のゴミ問題が頭をちらつく。20年くらい前、フィリピンの貧困層支援のため、輸入業者から物資支援の協力を要請された事もあったが。。

http://enigme.black/2015070401

フォルモススミヤマクワガタと、タカクワミヤマクワガタの色々

 フォルモススミヤマクワガタLucanus formosus Didier, 1925はラオス北部に分布し、キクロマトイデスミヤマクワガタに酷似して判別が難しい。

https://science.mnhn.fr/institution/mnhn/collection/ec/item/ec3735

(基準産地はラオス北部のシェンクアン)

https://www.researchgate.net/figure/A-Lucanus-formosus-Didier-type-tipo-B-Lucanus-cyclommatoides-Didier-type-tipo_fig2_280554642

(一見しては頭部くらいしか差が分からない)

 ラオスフーパンの分布域ではツカモトミヤマクワガタの個体数が多くフォルモススミヤマは少ない。

f:id:iVene:20220827023139j:imageラオスフーパン産。画像のようなフォルモススミヤマの担名タイプ個体と近い型は希少である。稀型が担名タイプなどとは分類屋泣かせな話である)

f:id:iVene:20220827023143j:imageラオスフーパン産。一般的に見られるのはこういう型)

 実際には、キクロマトイデスミヤマクワガタとは軽微な外見差異と交尾器形態で見分けられる。結構な個体数が必要にはなるが。

https://www.researchgate.net/figure/Lucanus-formosus-Didier-Specimens-from-Esemplari-di-A-C-Sapa-Vietnam-D-G-Ban_fig3_280554642

 しかし、タカクワミヤマクワガタとの関係性は亜種関係と考えられる。フォルモススミヤマとタカクワミヤマに交尾器の差異は見られない。つまりLucanus formosus takakuwai Fujita,2010で"フォルモススミヤマクワガタ亜種タカクワ"の呼称でも問題無さそうである。ならばラオス北部産はLucanus formosus formosus Didier, 1925。

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ベトナム・ラオカイ産タカクワミヤマクワガタ。注記しておくと基準産地サパ近郊の山ではなくラオカイ南方の個体。とはいえそんなに遠くはない)

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ベトナム・ラオカイ産。サパ近郊だが南側の個体らしかった。色の変異があるが此の産地のものは暗色の個体が多数派)

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ベトナム・ラオカイ産。顎の変異も色々)

 フォルモススミヤマクワガタは体型として雌雄ともにタカクワミヤマクワガタよりも頭部が軽微には見えるが大きい比率を呈し、いずれの個体も体毛が少ない。♂では顎先の内歯位置、大型♂では顎の湾曲部位・湾曲角度が異なる事で見分けられる。♀や小型♂も差異はあるが難しい。比較には個体数を要する。

 フォルモススミヤマはラオス北部一帯で、またタカクワミヤマクワガタベトナムライチョウ、ラオカイ、イエンバイを横たわる山脈の中腹〜高標高に分布するため"低標高には分布出来ない"という形で地理的隔離が考えられる。

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ベトナム・イエンバイ産。2002年に葛信彦氏が「キイロホソミヤマクワガタ」なる不明種として報文に載せたファンシーパン山の大型個体に似る。それにしても格好の良いミヤマだから数ドルであった事が信じられない)

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(手元のタカクワミヤマ♀はベトナム・イエンバイ産のみ。ラオス産フォルモススミヤマとの判別には個体数を必要とする)

 比較には沢山の個体数が必要なのだが、ラオスからフォルモススミヤマはあまり数が来ない。

 とりあえずベトナム産のタカクワミヤマクワガタについては沢山手元にあったため、ベトナム産タカクワミヤマの変異内にラオス産のフォルモススミヤマの型と全く同形態のものが無いか調べると、そういうのはやはり見つからない。またラオス産については様々な画像や友人達の収集資料群から、外形での判別が可能な亜種と見通せた。

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(タムダオ産というデータラベル。顎の最大内歯から先端にかけて小内歯の突出がメリハリある稀型ではあるが、タムダオからの記録は皆無に近しい。ベトナム産は産地データを雑に扱う人達もいるらしいが、丁寧な人物も見つけているらしい。本当にタムダオにいるのかは再現性データが少ない)

........

 まだ問題があるのだが其れはタカクワミヤマクワガタの事である。

 タカクワミヤマクワガタのタイプ個体群はラオカイのサパ産のもので構成され同地は基本的に個体数が少なく、同地サパ産については高額で売買されていた歴史がある。ebayでベトナム原産地から大量に出始めるまではベトナム産タカクワミヤマが希少種と思われていた。

 ebayで出始めたのは2012〜2013年辺り、初期はヴァンチャンの村から入ったラオカイ南方エリアの個体群であるらしかった。その頃の個体群は全く同定されずキクロマトイデスミヤマに混じり沢山の個体が出品された。当時はタカクワミヤマをキクロマトイデスミヤマと分けて考える原産地業者が居なかったので初っ端から不明種として安価入手が可能だった。

 しかし、日本国内やヨーロッパなどの業界人はebayに出品されたベトナム産タカクワミヤマを"新種?"、"不明種"、或いは"フォルモススミヤマ"と呼称し、ebayでは5〜15ドルでタカクワミヤマが不明種として出品されていた同時期に、タカクワミヤマとして5万円〜10万円で売り出す関東の有名業者がいた。

 ベトナム国外で高額売買されると聞き及んだ原産地業者の一部は原価を値上げし、原産地から輸入をする標本商などは原産地で割高の仕入れをせざるを得なくなっていた(まぁそれでも数十ドル前後だったらしいが)。ebayでもキクロマトイデスミヤマなどを誤同定し"タカクワミヤマ"として高額出品する原産地出品者らが増えた。

 一方で安価出品を継続する原産地業者もいたため、勿論今のような底値を固めていくようになっていった。

 2013〜2014年に私は勿論ebayで安価なラオカイ産の個体群資料を入手し、変異幅が様々ある事を理解した。タカクワミヤマクワガタのホロタイプと殆ど同型の個体すらある。色の明暗も変異幅が広い。様々な仮説があったせいで頭が痛かったが、此れ等はタカクワミヤマだろうと見通しを立てた。

 基準産地の個体群とは"大まかな外形"では判別出来ない事を理解したので、細部に差異があるか検証が必要となる。分類屋の友人が大型♂のパラタイプ個体を所持されていたので観察させていただいた。内歯の発達などが変わった気分もしたが、タカクワミヤマのタイプシリーズは画像が書籍・ネット上に幾つか出た事もあり、稀型のパラタイプという可能性を考えた。他に注目すべき差異もあまり感じられない。基準産地のサパ産、ラオカイ南方産、イエンバイ産で区別に困る隠蔽種の存在は確認されず、分類可能な程度の差異は無く、此の考察結果に至る。

 念のためタカクワミヤマについて留意しておくべき点として、タイプシリーズなどサパ産として出ていた個体群に明色型が多い事があるのだが、初期のサパ産(おそらくファンシーパン山)タカクワミヤマ個体群を扱った葛信彦氏からは「亜硫酸ガスで処理された個体群」という事を私自身で直接聞いている。其の処理ならば明色になっても不思議ではないし、或いは地域変異があったのかもしれない。

 また葛信彦氏が"キイロホソミヤマクワガタ"として未記載時点で書籍に載せた際の大型個体は頭部〜前胸は黒味がある。また体毛が薄い印象があったが、同報文に載った他の更に毛深い種群の写真も体毛が実際より薄そうに見えたため撮影の条件の問題と考えられる。

 諸説あったせいで検証に少々時間がかかったが、結論はタカクワミヤマは普通種でフォルモススミヤマの亜種だという事が分かった。

【References】

Didier, R. 1925. Descriptions sommaires de Lucanides nouveaux de la faune Indo-Chinoise. Bulletin de la Société entomologique de France 1925:218-223.

Fujita, H., 2010. The lucanid beetles of the world Mushi-sha’s Iconographic series of Insect 6.472pp., 248pls. Mushi-sha, Tokyo.

Katsura, N. & Giang, D.L. 2002. Notes on the genus Lucanus from northern Vietnam with descriptions of two new species. Gekkan-Mushi 378:2-14.

【追記】

 タカクワミヤマの判別法が拗れたのは、単純な話で本文にも書いた通り高額売買があったからである。基準産地の個体は数少なく、"真のタカクワミヤマというのが正体不明である"という話になってしまって長年経ってしまった。

 そもそも暴落するならば調べがつくまで引っ込めるべきだったのだが、高額で買ってしまったコレクターも、高額で売ってしまった業者も、タカクワミヤマが希少種の座からいきなり「超普通種だぞい(笑)」と言われ降ろされたら立つ瀬がない。"コレクター"なのにかつがれて超普通種を高額で買ってしまうのも、ボッタクリと銘打たれる業者らも頗る格好がわるい。返品や返金は基本的にしないという暗黙の了解がある文化の業界だから買った側にも責任がある。とにかく業界に閥の悪い話が付き纏う。

 研究出来たらそれで良い私みたいなのからすれば、相場がめちゃくちゃなのは"色々事情があるのだから仕方ない"と簡単に受け入れられるし場合によりネタにするくらいだが、"体感で高い金額"を使ってしまった人達はそうでもない。長年に亘り諸説が出ていたのは、彼らの個人的な感情や都合が原因に混じっている。

https://twitter.com/terrakei07/status/1563318869506560001?s=21&t=Yr3BzmmsKzmfDw8IckopBw

 タカクワミヤマについて言えば、ベトナムからは高標高からキクロマトイデスミヤマと合わせて2種しか判別が少し難しいのは見つからないのだから、真面目に検証すればこんなのはすぐに分かるのだ。

【追記2】

 当記事に対するご意見・ご反論があったようなので後学の為にリンクします。

https://jinlabo.jp/2022/09/14/%e6%9f%90%e3%83%96%e3%83%ad%e3%82%b0%e3%82%92%e5%8f%97%e3%81%91%e3%81%a6%e3%80%81%e3%82%bf%e3%82%ab%e3%82%af%e3%83%af%e3%83%9f%e3%83%a4%e3%83%9e%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6/  

 分類については委細承知で、生息地山塊の話をしても面白いのですが"御反論に対する反証資料が複数手元にあるため私は自説を維持します"とだけ書いておきます。諸疑問について雑多な画像や記述からの読者判断は難しいでしょうから、再現性の事など後の判断は読者の人達に任せます。

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(例としてラオカイ南方産40.7mm)

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(顕微鏡写真。脚の模様は個体により変異が幅広い。この個体に体毛が少ないように見えるのは抜けている訳ではなく体表にベッタリ付いていて、また体色が明るいために見えにくくなっている)

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(小型♂個体群)

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(他イエンバイの大型個体など。此の種の死骸はアセトンによる脱脂より手間なしブライトで漂白した方が脱色に効果的でしょう)

 他に何か違いがあるのでしょうか。

追伸:ebayで出ていたライチョウ産とは最近だと以下2点のみ確認できました。あと数ヵ月ほどで見えなくなってしまうでしょうがリンクします。ebayアプリで画像の拡大が可能。画像の保存は個々にお任せします。私はアプリから高解像度の画像を保存しました。


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引用元:https://www.ebay.com/itm/265835569383?mkcid=16&mkevt=1&mkrid=711-127632-2357-0&ssspo=NyKlEEnUQ-C&sssrc=2349624&ssuid=b-6KxoiJTOG&var=&widget_ver=artemis&media=COPY


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引用元:https://www.ebay.com/itm/265835571311?mkcid=16&mkevt=1&mkrid=711-127632-2357-0&ssspo=NyKlEEnUQ-C&sssrc=2349624&ssuid=b-6KxoiJTOG&var=&widget_ver=artemis&media=COPY

キクロマトイデスミヤマクワガタの色々

 キクロマトイデスミヤマクワガタLucanus cyclommatoides Didier, 1928は北ベトナムファンシーパン山を中心に雲南省南東部を跨ぐ山脈に生息する。

 近似別種の既知分類群にフォルモススミヤマクワガタやタカクワミヤマクワガタがあり「この辺りの分類を上手く理解出来ない」と言う人も多い。特にフォルモススミヤマとキクロマトイデスミヤマの関係性は混乱しがちである。実際は別種である。

https://science.mnhn.fr/institution/mnhn/collection/ec/item/ec3737

(担名タイプを所蔵する博物館もシノニム扱いをしている。しかしフォルモススミヤマの分布するラオスからは完全にキクロマトイデスミヤマと言える個体を私は見た事が無い。ちなみにフォルモススミヤマの雲南省産♀タイプ個体はデラバイミヤマと見通される)

 採集人がいなかった頃は希少種という人もいたが、ベトナムのサパ・ラオカイにあるファンシーパン山から多量の個体群が人海戦術で採集され業界では普通種の扱いを受けるようになる。2013〜2015年あたりからラオカイ南方〜イエンバイ、北の雲南省近域からも沢山採集され同じく普通種扱いである。

 ファンシーパン山の個体群は色彩以外の形態変異が少なく、細い顎、湾曲位置、内歯の出方は同じような個体が多い。

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ベトナムのサパ・ラオカイ、ファンシーパン山の基本型。見た目は良いが見慣れた形であり、社会的認知から適した表現を付けるならば"格調高い外形のド普通種"。2022年現在は売れなくなった種であるため採集されないからかあまり見ないが、数年前まではebayでのチェックで、暫く見たくない気分に度々なったくらい大量に散見した思い出ばかりが脳裏に浮かぶ)

 しかし実物を前にすると普通種にしては美しく、恰も希少種であるかのように錯覚するような見目麗しさがある。現状では飼育が難しいらしく、基本的に野生下採集品しか目にされる事は無い。まぁ今後じっくり飼育しようと言う人が出てきそうにもない。

 長年に亘るダンピング・大量供給ゆえに原価が底値付近で不動である。

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ベトナムのサパ・ラオカイ、ファンシーパン山の顎の発達が弱い型。"ミニチュアのカンターミヤマ"のようでもある)

 ファンシーパン山辺りからしか来ていなかった頃は殆ど基本型しか見られなかった。後に変わった型の出るサパ南部や、イエンバイからの個体群も稀型などを資料も取り寄せた。雲南省の個体群は基本的にファンシーパン山の基本型に近く稀型はあまり見ないから入手していない。

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ベトナムのサパ・ラオカイ産。山のデータは不明だが恐らくファンシーパン山。顎が太く長い個体は少ない)

 ラオカイ南方付近にも少ない型が出る。しかし此の地域の個体群は近年見かけないようで、2012〜2015年辺りしか目にしていない。ヴァンチャンの村から入ったエリアと聞いている。

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ベトナムのラオカイ南方に産する個体群は暗色型が多く、また顎は細く湾曲位置は比較的基部寄りになりクラーツミヤマのような型の個体も現れる)

 イエンバイ産とされる個体群も更に面白い。ただし、これも2015〜2016年辺りにしか見かけなかった。2017〜2018年以降の"イエンバイ産"は稀型が混じらずであった。詳細産地まではデータされないが、稀型の出やすい山塊があるかのような話であった。

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ベトナム・イエンバイ産。右顎は奇形だが、顎の最大内歯がよく発達する型が見られる時期があった。イエンバイ・ムーカンチャイ産とあったが、ムーカンチャイは広く"特殊な変異"が出やすい山塊が幾つかあると予想ができる)

 キクロマトイデスミヤマは分布域の南ほど変異が出やすい事が分かる。とはいえ基本型が殆どを占めるため、変異といってもあくまで"稀型"の出現率の話である。

 地域変異というのは稀型を観るのに良い資料が多いので、安いのならばとりあえずは参考に欲しい。しかし稀型というのは一見新種のようにも見えるため、2015年前後のイエンバイ産が出始めた頃では一瞬高額になっていた。

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(これもベトナム・イエンバイ、ムーカンチャイ産。フジタミヤマクワガタのような内歯の配置、拡がりのある顎湾曲、最大内歯はやや基部寄りになり前は向かず基部側を向こうとする。此の型については、無尽蔵にキクロマトイデスミヤマを見てきたなかで此の1頭しか見知らない。絶対必要と入手したが7ドルであった。同型の追加は未だならない)

 一応のため稀型の資料は要したから入手している。しかし「稀型とはいえまた出るかも」と待ったものの追加は出てこない。稀型については"勘違いするくらい綺麗な奇形"という可能性も想定の内であるため、再現性の程度など知っておきたかったりする。

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(♀は結構珍しく、あまり採集個体群に混じらない。手前がイエンバイ産で、奥がサパ・ラオカイ産。フォルモススやタカクワとは前脚ケイ節の形で判別は容易)

 あまりにも安価である為、相手にされる事が少ない生物種ではあるが、実際には"思わぬ普通種に地域変異がある"という事を気付かせてくれる生物学的にも最も面白い分類群の一つ。

【Rreference】

Didier, R. 1928. Description d'un Lucanide nouveau de la Faune indo-chinoise. Bulletin de la Société entomologique de France:51-53.

【追記】

 キクロマトイデスミヤマは今なお安い。歴史的に長らく安価であるため、今や如何に外国産で格好良く稀型であろうが供給量が減ろうとも安価である事が不動である。私の買った底値は大型不完品だった1ドル、完品大型や格好の良い稀型でも1500円を上回った事が無い。小型♂個体群に至っては貰い物やベトナム産の未同定セットに混じっていた個体だからタダ同然であった。

 "あまりにも安価且つ大量供給されたゆえに如何に格好良くとも滅多に買われなくなった"という、収集屋の認知を考察する上でも面白い種である。安価で色々な考察が出来るというのは資金力が無い虫屋にとって良いクワガタである。普通種は安いから良いのである。

 ラオス北部に分布があるフォルモススミヤマはまだ少ないが、ベトナムで時々キクロマトイデスと混じるタカクワミヤマは同じくらい安価になっている。しかし"タカクワミヤマ"については認知のされ方が微妙なままである。

 キクロマトイデスミヤマの♂外見の見分け方は大顎先端の内歯位置、顎湾曲、頭部形態など、♀は前脚ケイ節で、タカクワミヤマなどと見分けられる。

 タカクワミヤマやフォルモススミヤマは、キクロマトイデスミヤマとは別種のようで♂交尾器の基節後縁の窄み方を観る。しかし生体では交尾器に体液が回っているため硬さがあるが、死虫は乾燥し塑性変形をしてしまう事があるので、標本を作製する際は交尾器の生体時形態を出来るだけ維持するように注意しなくてはならない。

https://www.researchgate.net/figure/4-2-Lucanus-marazziorum-nsp-3-4-Lucanus-formosus-Didier-3-Ban-Saleui-Laos_fig1_280554642

(この画像でも、角度的に見辛いが差異が確認可能。ただフォルモススとされている方は基節の軟組織が未だ被っている)

 また少なくない記載者が♂交尾器基節後縁を軟組織で覆ったまま図示しているが、其の部位も観る必要があると此れらの種群で理解できる。♀は交尾器の縦横長さを比較する。小さいため差異も見辛く単純に"観るだけ"では特徴を捉えにくい。

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(勿論だが本文に図示した分だけでなく、バックグラウンドでは沢山の個体で比較観察している)

スカプロドンタ型ヨーロッパミヤマクワガタの色々

 "Lucanus cervus forma scapulodonta"は1963年にEric Weinreich氏により記載された型名である。ドイツのヴェツラー近郊/ライン川流域で1969年まで記録のある型のミヤマクワガタで、現在は絶滅が疑われ分布が確認されていない。

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(1959年にヴェツラー近郊の広場のeicheの木から得られたとデータラベルに記述される個体。顎先がシャベル状、或いはヘラ状と呼ばれるような形になる。画像の個体では通常のケルブスに比べて体長に対する脚の長さは短めの比率。交尾器の形態は普通のヨーロッパミヤマと変わらない。ナイフエッジな顎先内側縁は何か生存に役立っていたのかもしれないが、調査の容易なエリアであるにも関わらず今は現生が確認されないから生態と形の関係性について何の考察も叶わない。ちなみに私が画像の個体を入手した頃は"未だ調べている人も少ないし絶滅していないかもしれない"と言われ今よりずっと安価だった)

https://unmondeencouleurs.piwigo.com/index?/category/4269-lucanus_cervus_f_scapulodonta_paratype

https://unmondeencouleurs.piwigo.com/index?/category/3302-cervus_f_scapulodonta_weinreich_1963#&ui-state=dialog

(顎先の変異は様々。ヘラ状の変異は揺らぎに程度がある。しかしシンメトリーにはなる)

 このミヤマクワガタについては原記載者であるヴァインライヒ氏が精力的に資料を採集され、後年のコレクターの手元にある個体は殆どが氏の採集個体と記述されるラベルが付く。

 最初に発見例が記述されたのはHepp, 1936による"1931年のタウヌス山地で得られた個体"とされる。タウヌス山地の北エリアにヴェツラーがある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%8C%E3%82%B9%E5%B1%B1%E5%9C%B0

 1936年にはSchoop氏がKirn a. d. Nahe 付近で同じような体型の♂を観察したと1937年の文献に記述される(産地が離れるため擦れ個体と考えられる)。

 戦前の記録でSchoop氏によるとSoonwaldesの鳥の巣から197頭分のクワガタの頭が大量に発見されたらしいとあり、2頭scapulodonteな個体が混じっていたらしい(産地が離れるのと割合ごく少数であるため擦れ個体と考えられる)。

 1951年、Wetzlar近郊(Taunusauslafer sudl. d. Lahn)でscapulodontesが発見される。Elli Franz博士はこの動物について言及し図解している (Natur und Volk, Frankfurt a. M., 89, 1959, p. 74-80, Fig. 1c)とある.

 1954年?にはヴェツラーでスカプロドンタ型ヨーロッパミヤマが撮影され、Wiesbadenの出版社F. A. BROCKHAUSに届き、"Großer Brockhaus"に色々掲載があったそうである。

 1956年にはヴェツラー南約6kmのBonbadenでKorting氏が発見との記述。

 1957年にヴェツラー町中で、街灯の下で踏みつけられた小さいscapulodontesが見つかるとの記述。

 1958年、 Fender氏がヴェツラーの南約2kmでf. scapulodontaを1頭発見との記述。

 1959年にヴァインライヒ氏はDr. WangorschやKörting氏と共にヴェツラーの南約5kmの地点で古いオークの森林を見つけている。

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(「Takao Suzuki &  Kouichi Tanida, 2002. ヨーロッパミヤマクワガタ(Lucanus cervus)の分類と地域変異. Kuwata. No. 12」より引用抜粋。顎先はやや太い程度の個体)

 一応色々調べたところでは、ヴァインライヒ氏以外の人物もヴェツラー辺りで採集された事が分かる資料も現存している。いくつかの博物館等に所蔵されていた事を私は目にした。

 他方、顎先の擦れた個体がコレと間違われやすい。私もWormsleben産で見間違えるような擦れ個体をとある博物館で見た事がある。

https://sites.google.com/site/bugmanskaefer/der-hirschkaefer-lucanus-cervus/oekologie-des-hirschkaefers?overridemobile=true

https://m.youtube.com/watch?v=q3ssWT9s0HY

 また、ヘラ状形態は強弱のヴァリエーションが幅広く、型名とする人が殆どであった。

 ヴァインライヒ氏はスカプロドンタと基本型のケルブスを50:50の割合でヴェツラーにて観察したとあり、そういう理由からフォームの記載になっている。

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(「Baba, M. 2004. “A note on synopsis of Lucanus cervus (Linnaeus, 1758) (Coleoptera, Lucanudae)” Be Kuwa No.11」より引用抜粋。掲載の大きめな個体は顎先が顕著なヘラ状、小型個体群は顎先が太くなる程度)

 しかしヘラ状形態の弱い個体は基本型に似るので、其れを基本型と見られたと考えられる。私自身は、スカプロドンタ型ヨーロッパミヤマが得られていた時代のヴェツラー産でヘラ状形態が弱くとも基本型そのもの程になっている個体は見た事が無く、少なくとも膨らみは残る。♀は現存数が少なそうであるから比較はマトモには出来なさそうである。型ではなく亜種という説もあったが実際はどうだったのか。

 ヴァインライヒ氏は"此の時代では最も緻密にクワガタムシ科を調べた研究家であった事"が、世界中のクワガタに関する多岐に亘る氏の著書・論文群から理解できる。論文に調査対象個体群について必ずデータの記述が完璧に掲載され、交尾器の観察もよくされていた。蛇足な論文も書かず、科学に対し誠実で、自然に対し畏れを持って誰よりも深くクワガタムシ科甲虫を理解しようとした人物像を想わせる。

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(「Weinreich, E. 1963: Lucanus cervus forma scapulodonta, eine auffallende Mutation unseres Hirsch- käfers. - Ent.Ztschr. (Stuttgart) 73(4): 29-33.」より引用抜粋。原記載であるが紛らわしい小型個体のスケッチは無い事から、Weinreich氏は其れ等をノーマル型とカウントした可能性がある。ヴァインライヒ氏が論文に載せたスケッチ図1〜6は顕著に基本型と異なる個体ばかりがモデルである。図7は比較用のノーマル型と記述され産地データは付記されない。図8の3♂はSCHOOPsによるスケッチの掲載と記述される)

 しかし現在絶滅しているならば自然界での観察が出来ない。亜種であったにしろなかったにしろ、ここまでの特化には数十万年から数百万年はかかっていると予想できる。

http://www.fossilworks.org/cgi-bin/bridge.pl?a=taxonInfo&taxon_no=319816

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(「Taroni, G. 1998. Il Cervo Volante (Coleoptera Lucanidae): natura, moto, collezionismo. Milano: Electa.」より引用抜粋。サイズ差が無くても型の差は出る)

 様々な個体を見ていれば通常のケルブスと全く同じ形態の♂個体は混じっていないようで図示がされた事も無い。当時ヴェツラー近郊の分布域は周囲から隔絶されたような生息域だった事を予想される。

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(Matthäus Merianにより描かれた西暦1655年のWetzlarは広大な平原やクワガタの居なさそうな山に囲まれているように見える。絵は「Martin Zeiller, 1655. Topographia Hassiae et regionum vicinarum. Das ist / Beschreibung vnnd eygentliche Abbildung der vornehmsten Stätte vnd Plätze in Hessen / vnnd denen benachbarten Landschafften / als Buchen / Wetteraw / Westerwaldt / Löhngaw / Nassaw / Solms / Hanaw / Witgenstein / vnd andern. In dieser andern Edition mit sonderm fleiß durchgangen / von vorigen Fehlern corrigirt / gebessert vnd vermehret. Topographia Germaniae. Vol. 7. ed. 2」より引用)

https://www.antiqpaper.de/start.htm?ansichtskarten_postcards_photos_deutschland_p_hessen_p_wetzlar.htm

(1900年代初頭も似た雰囲気を呈する)

https://www.augias.net/2020/01/06/8994/

https://www.trolley-mission.de/de/luftaufnahmen/wetzlar

https://www.usarmygermany.com/Communities/Kassel/Aerials_Lloyd%20Ksn%201950%201.htm

(1950年代以前も1655年の雰囲気とあまり変わらない。戦時中の時代もあった)

https://www.flickr.com/photos/96982658@N05/15451199641

(1970年代)

https://www.gettyimages.co.jp/%E5%86%99%E7%9C%9F/%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%84%E3%83%A9%E3%83%BC

(21世紀初頭。見かけ上は緑豊かである)

 なお、フランクフルトやウィーンでも得られたとされるが正確な図示はされていない。おそらくは顎が擦れた個体と考えられる。間違いなくスカプロドンタと同型と言える個体は他産地では見つかっていない。

https://www.zobodat.at/pdf/ZAOE_21_0061-0062.pdf

 ドイツは森林伐採が盛んであったとされ、ヴェツラーも大規模なダルハイム新住宅地を1960年代に建設し始め1965年には拡充をしたらしい。おそらく近郊の楢や樫をふんだんに使ったと推定できる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%84%E3%83%A9%E3%83%BC

 其のあたりが原因で絶滅したのだろうという見方が一般的であるが、現在の様子を見るにヴェツラー近く周囲では通常のケルブスが見られるようになっている。一方でスカプロドンタは再三の調査でも見つかっていない。もはやスカプロドンタ型ヨーロッパミヤマクワガタが生存しているとは考えられない。

http://www.inaturalist.org/observations/26908528

http://www.inaturalist.org/observations/123808461

 森林が残っていた時代は、ヨーロッパ中で最もヨーロッパミヤマクワガタが観察されたのはドイツだったという人もいた。第二次世界大戦時にナチス将兵のところに大きな個体が飛んできて留まっただろう写真も見た事がある。

 ドイツは様々な環境問題を抱えては、表面上で取り繕うというやり方を歴史的に繰り返してきている。うわべだけの対策は失敗する。

https://www.sustainablebrands.jp/sp/article/story/detail/1207953_2141.html

https://www.sustainablebrands.jp/sp/article/story/detail/1208049_2141.html

 しかしスカプロドンタ型ヨーロッパミヤマクワガタは、想像されているような"単純な伐採"だけで絶滅したのだろうか。タウヌス山地は持続可能な範囲の伐採地として運用されたとある。という事は伐採していたとしても多少なり原生林を残していたのではないだろうか。天然更新による林業が行われているとは言われるが、もしかして、1960年代あたりからの宅地事業に使用した分の木々の代わりを、全く別産地から調達し雑な植林で補おうとしたのではないだろうか。

 現在のヴェツラー周囲はギーセンとの中間エリアなど近い場所で普通のヨーロッパミヤマクワガタが見られる。という事は二次林が人工林を加えヴェツラー近郊で拡大しているという事を意味する。此の状況証拠は極めて堅い。

 二次林が拡大したせいで通常のヨーロッパミヤマがヴェツラー近郊の原産地付近に流入した事でトドメを刺されたという可能性も充分に考えられる。

https://iob.bio/journal/schwartzwald-reforestation/

 交配が重なり個体数の圧倒的に多い通常のケルブスに取り込まれた後、消失した可能性も考えられる。スカプロドンタの形態は圧倒的な物量の流れに圧され自然界から全く失われたのではないか。

 人類は目先の欲を満たしてきたが、批判されたらハリボテの回復で其の場凌ぎもしてきた。そんな事はそこら中で散見される。

 自然界で悠久の時を進化してきた生物系統を、いとも簡単に絶滅させられるのが人類である。

 ヨーロッパで広くヨーロッパミヤマクワガタの1種が分布しているだけに、スカプロドンタ型ヨーロッパミヤマが浮島のような分布をしていた事はとてつもなく興味深かった。しかし詳しく調べる術は最早無さそうである。

【References】

Weinreich, E. 1963: Lucanus cervus forma scapulodonta, eine auffallende Mutation unseres Hirsch- käfers. - Ent.Ztschr. (Stuttgart) 73(4): 29-33.

Taroni, G. 1998. Il Cervo Volante (Coleoptera Lucanidae): natura, moto, collezionismo. Milano: Electa.

Takao Suzuki & Kouichi Tanida, 2002. ヨーロッパミヤマクワガタ(Lucanus cervus)の分類と地域変異. Kuwata. No. 12

Baba, M. 2004. “A note on synopsis of Lucanus cervus (Linnaeus, 1758) (Coleoptera, Lucanudae)” Be Kuwa No.11

【追記】

  "scapulodonta"の学名が亜種に昇格するか否かは以下の条文を参考にする。

45.5. 亜種よりも低位の学名. 亜種よりも低位の実体 (用語集を見よ)を示すために提唱された学名は, 条45.6の条項が別に定める場合を除き, 適格名ではない. その学名は, 種階級群から除外され, 本規約に規制されない [条 1.3.4]. 三語名に付加した第四名として公表されたものは, 自動的に亜種よりも低位のある実体を示す (ただし, 挿入された種階級群名 [条6.2] は, 三語名への付加だとは見なさない).

45.5.1. 本条の条項下で亜種よりも低い階級をもつ学名は, 審議会の裁定による場合を除き, いかなる後世の行為 (“階級の上昇”など) によってもそれの設立時の著作物からは適格になり得ない。 誰か後世の著者 が同一の単語を,それを適格名 [条11~18] にするやりかたで種もしくは亜種に適用するときは,その著者が学名の著者権を亜種よりも低位の学名としてそれを公表した著者に帰したとしても、それによってその後世の著者が独自の著者権と日付をもつ新学名を設立することになる.

例. (Ognev, 1927 が公表した) Vulpes vuipes karagan natio ferganensis のなかの学名ferganensisは, 三語名への付加であるから亜種よりも低位である. この学名は最初にこれを亜種 Vulpes vulpes ferganensisに対して使用したFlerov (1935)の時点から適格であるので,これの著者権は彼に帰するべきである.

45.6. 二語名の後に続く学名が亜種の階級か亜種よりも低い階級かの決定. 二語名の後に続く種階級群名が示す階級は, 亜種の階級である. ただし, 次の各号を除く.

45.6.1. その学名の著者がその学名に亜種よりも低い階級をはっきりと与えている場合,または, その学名が亜種よりも低位のある実体に対して提唱されたものであるということが当該著作物の内容からあいまいさなく分かる場合,その学名は, 亜種よりも低位である (条45.6.4も併せ見よ).

45.6.2. その学名の著者が用語“変性種", "ab.", “morph” のどれかを使用した場合,その学名は,亜種よりも低位だと見なす.

例. Ognev (1913) が公表したArvicola amphibius ab. pallasi のなかの学名pallasi は,亜種よりも低位である.この学名は,最初にこれを亜種Arvicola terrestris pallasiに対して使用したOgnev (1950) から種階級群名として適格であり,かつ, 彼に帰するべきである.

45.6.3. 最初に公表されたのが1960年よりも後であり, その学名の著者が (用語“var.”, “forma", "v.", "f." を含め) 用語 “変種”, “型”のどちらかをはっきりと使用している場合, その学名は, 亜種よりも低位 だと見なす.

45.6.4. 最初に公表されたのが1961年よりも前であり,その学名の著者が (用語“var.", "forma", "v.", "f” を含め) 用語 “変種”, “型” のどちらかをはっきりと使用している場合, その学名は, 亜種の階級である. ただし,その学名の著者が同時にその学名に亜種よりも低い階級をはっきりと与えている場合,または,その学名が亜種よりも低位のある実体に対して提唱されたものであるということが当該著作物の内容からあいまいさなくわかる場合は、この限りではなく,その場合,その学名は, 亜種よりも低位である [条45.6.1]. ただし, 次の号を除く.

45.6.4.1. 1985年よりも前に種や亜種の有効名として使用されたか, または, 古参同名として扱われた場合, 条45.6.4の下では亜種よりも低位のある学名は, そうであるにもかかわらずその学名の原公表から亜種の階級であると見なす.

例. Spencer(1896) は,彼が小型肉食有袋類の同属2種 Sminthopsis murinaS. crassicaudataの中間形だと考えた1標本をもとに, Sminthopsis murina var. constricaを記載・ 命名した. 彼の著作物からは,この学名が亜種よりも低位の実体に提唱されたものであることがあいまいさなく判明するわけではないので, constricaは, この学名の原公表の時点から亜種の階級をもつ. 異翅類では,Westhoff (1884)は長翅型そのものであることを明示して学名Pyrrhocoris apterus var. pennataを与え, Wagner(1947)は羽化直後の成体そのものであることを明示して学名Stenodema trispinosum f. pallescensを与えた. したがって, 学名pennatapallescensは, 亜種よりも低位であり,どちらの学名も1985年よりも前に種もしくは亜種に採用されたことがなかったので,いずれの学名も不適格である.

 Polinski(1929) は,陸貝 Fruticicola unidentata subtecta を "variété (natio) n." として記載し, それは亜種の階級に値しない “une forme” に過ぎないとはっきりと述べた. ところが, Klemm (1954) はある亜種の有効名としてTrichia (Petasina) unidentata subtecta (Polinski) を採用した. したがって亜種小名 subtecta は, Polinski, 1929 の時点から適格だと見なす.

(国際動物命名規約第四版より引用抜粋)

 という事はWeinreich氏が1963年に出版した"scapulodonta"は有効名では無いと考えられる。しかし改めて"亜種か型か"調査する事も絶滅しているならば叶わない。

 1961年から1985年の間に原記載者はじめ、いずれの著者らも種や亜種としてではなく"型"としての記載をしており、他種の古参同名とされた事も無い。即ち命名規約では除外の対象になる名称である。

 本文記述を根拠に私の予想では"ヴェツラー周辺が特殊な環境により隔離され亜種に特化した個体群だったろう"に考えられるが、今では基産地での再確認が出来ないから、"亜種であったか特殊な型であったか"の検証が出来ない。原産地での観察も、飼育累代での観察も出来ない。

 ヴェツラー近郊での通常のヨーロッパミヤマクワガタの観察結果を鑑みれば"伐採で個体数を減らし過剰な人為植林により地理的隔離がなくなり、スカプロドンタと周囲のケルブスが一つの系統に集約された"と推測されうる。

 過剰な植林による二次林は生態系を偏らせるため、大体の固有種が生存する確率を減らす。原生林にあった微視的な生態系の多様性バランスは二次林により完全に破壊される。ペンキで岩山を緑に塗って「環境を守った」などと満足する連中と変わらない。伐採で森林が減ったならば二次林などに頼らず、従来産する固有種で原生林を復活させようという天然林を目指した方が明らかに確実である。

https://rocketnews24.com/2015/03/17/558202/amp/

 原生林は二次林に侵食されないように保守をしつつ残していかなくては、スカプロドンタ型ヨーロッパミヤマクワガタのような生物系統が自然界から姿を消していく。特にドイツの一地域に限った話ではなく、日本を含めて世界的に危惧される。

 命名規約にあまり干渉されない名称の系統個体群のまま絶滅に追い込まれたとはいえ自然界で生じた一系統であった。其れを人間社会の都合で認知させず、絶滅にまで追い詰めた。"そういう戒め"で人類を縛りつける生物系統であったと言える。

ブレットシュネイダーオニクワガタの色々

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(インド・アルナーチャル・プラデーシュ州西部〜チベット南部クオナに分布するPrismognathus bretschneideri Schenk, 2008:ブレットシュネイダーオニクワガタは、Prismognathus nosei Nagai, 2000:ノセオニクワガタに似ており、中華鍬甲Ⅲにてノセオニクワガタのシノニムにされている。しかし実際には別種である。此れは未発表の稀型の特徴が根拠の一つというのもあるが、原産地に入って採集してきてくれた提供者に敬意を持って此処では公開しない)

 色々物議を醸す記載文を出す事で有名なシェンク氏の記載種は信用が低いというバイアスがかかりやすく、"論文だけを読む人"によっては"有効種かシノニムか"で解釈が分かれる事が多い。

 ブレットシュネイダーオニクワガタはインド・アルナーチャル・プラデーシュ州西部〜チベット南部クオナに分布しており、ノセオニクワガタとの混生エリアは未知である。加えて私の観察では全く異なる種であると結論が出た。

 しかし実物を多数揃えないと読み取りづらい差異である。

 原記載時は少ないが3♂が検証に使われた。記載文に図示されるアルナーチャル・プラデーシュ州西部産のタイプ個体は細身で脚が短いなど、記述の通りノセオニとは少し雰囲気を違える。しかし此の論文だけでは判然としない。

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(「Schenk, 2008. Lucanidae vom Arunachal Pradesh, Indien und beschreibung von zwei neuen Arten : Entomologische Zeitschrift 118(4):175-178」より引用のHolotype図。論文が手元に無かったので友人に手伝っていただいた)

 中華鍬甲3にてファン氏らは「差異を認められない」としてブレットシュネイダーオニクワガタをノセオニクワガタのシノニムとした。♂交尾器の図示は2頭分ずつ、♀は1頭分ずつしか無くて差異が分かりにくい。しかし交尾器の基節のサイズや各部比率などの差異は見られ、実際の生物体では差異と特徴の再現性がある。

 ファン氏らの措置は基産地の個体を使用していない問題もあるが、文献に図示のチベット・クオナ産個体群はブレットシュネイダーオニクワガタで良い。私自身でもクオナ産について♀のみだが手元にあり調べられた。

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チベット・クオナ産♀個体)

 シェンク氏については"Dr."付きで呼ばれる事が多いものの記載文の体裁からしてDr.とは思われない人が多い。しかし実はDr.らしく私も友人から教えてもらって驚いてしまった。いや失礼。しかしシェンク氏の住むドイツは厳しい制度があるようなのだが、あのような体裁で論文を出していて大丈夫なのだろうか。

https://de.wikipedia.org/wiki/Missbrauch_von_Titeln,_Berufsbezeichnungen_und_Abzeichen

 ネット上にはあまり出てこないが巷ではよく記載文の不評を耳にする。

https://www.frankfiedler.com/category/information/black-list/

(シェンク氏の一派が記載文を出しているページの一部。10年近く前からカミングスーンなBlack listのページ)

 後年にシェンク氏は"Dr."の威光を掲げながら自費出版している誌面に、何の反論もなくファン氏らの報文を載せている。だから読者からすれば著名で"専門的にクワガタを観る"として有名な両人ともが「ブレットシュネイダーオニクワガタがノセオニクワガタのシノニムと言っている」と解釈可能である。

 ファン氏らは中国産クワガタで様々ブレイクスルーな発表を行なっている。

 しかし自然界の実態は"ブレットシュネイダーオニクワガタは独立種"である事を示している。確かに似てはいるし"シェンク氏の記載種だから怪しい"とバイアスがかかるが、観るべきポイントを外すとこういう事もある。ブレットシュネイダーオニクワガタはノセオニクワガタよりも細身、また顎先端付近の背面状態、♀の配色など、そして何より交尾器形態が安定して100%異なる。

 シェンク氏は交尾器の観察をせずに種記載する。ファン氏らは交尾器の観察をするが不足が多い。中途半端なせいで"双方威勢だけ御立派で中身が蒙昧になりやすい分類方法をやっている"と結果が全てをあらわしている。正鵠を示せきれてないならば"同じ穴の狢"である。

同じ穴の狢

 一見別なように見えながら、実は同類であることのたとえ。悪事をもくろむ同類、品性の卑しい同類のように、悪い仲間でくくることが多い。

https://seiku.net/kotowaza/99_05p3.html

 ブレットシュネイダーオニクワガタの資料群については、産地周辺が精力的に調査されていた頃に入手出来た事が幸運であった。信頼できるルートで原産地からの間違いない資料、生物的形態特徴、様々な要素で私は疑念無く考察結果を此処に書ける。

【References】

Schenk, 2008. Lucanidae vom Arunachal Pradesh, Indien und beschreibung von zwei neuen Arten : Entomologische Zeitschrift 118(4):175-178

Huang, H., and C.-C. Chen. 2017. Stag beetles of China, Vol. 3. Formosa Ecological Company; Taipei, Taiwan. 524 p.

【追記】

 今代は、未記載種の発見というより"分類群単位のグルーピング"の方が重要性を増してきている。学名はシンプルに其のグループ名を決めたという程度である。「別種を同種としたグループにすべきで無いし、同種を別種としたグループにすべきでない」が命名規約の理念に近しいと考えられる。

 記載文は、担名タイプ個体・新しい学名・特徴説明・出版が揃えば有効になり、実態として真に新しく発見された分類群ならば先取権を得る。しかし生物というものを知らずに、虫をお金に換えるために記載する人達はガサツな事を書いて出す。そういう学名については"分類屋からは無視される"という話を多方面から聞いている。確かにシノニムにするのもしないのも面倒な分類群の学名など、第三者・読者からすれば使いづらい事がある。

 まぁさておき資料を入手する際は原産地入りして採集した人物から直接入手した方がデータの心配が無い。更に言えば自己採集した方が良い。外国僻地での実態調査なんて殆どの人には大変困難だろうけど、やらないで蘊蓄垂れる人達なんかに対しては、原産地入りしている人からすれば「原採の事も理解せんと偉そうな事書くなや」という話もある。学者によっては学生に資料を集めさせたりした事が災いし怪しげなデータ資料を論文に載せるという事があるくらい採集という作業は重要である。

 大まかな記録を言えば、現在の知見ではブレットシュネイダーオニクワガタはアルナーチャル・プラデーシュ州西部とチベット・クオナから見つかっている。対してノセオニクワガタはミャンマー北部、雲南西部、アルナーチャル・プラデーシュ州東部、チベット南東部から見つかっており、発見されているエリアでは2種の混生はない。アルナーチャル・プラデーシュ州中央では"いそうなエリア"を調査出来ていないという事で、もしかしたら混生しているかもしれないが、其れは予想の段階。いずれの産地でも此の系統のオニクワガタは個体数が少ない(ミャンマー産のみよく知られるのは人海戦術で採集されたため)。そういう事もあって、現状では人為的に混ぜない限り資料データのコンタミもあり得ない。

 しかしインド・アルナーチャル・プラデーシュ州は入域許可などあらゆる手順を踏まないと深い調査が出来ない。過去、シェンク氏に資料を提供していたドイツの採集人は、初期は紳士的に採集していたようだが、だんだん面倒になったのか後年では違法採集をするようになり逮捕されたらしい。以降はシェンク氏の元に新しい資料が来なくなった。

 とはいえ、今回の種ブレットシュネイダーオニクワについては、シェンク氏やファン氏らの示すデータが間違っていない事を"図示中の虫がノセオニとは別種である事"から理解できる(同定だけ間違い)。しかし、毎回の観察法が非科学な方法故に間違われる。

 観る目が無いと騙される。過去、明らかに空港土産の死虫セットを「自分で採集したんだ。いや〜海外の熱帯雨林は大変だったよ」などと流暢且つ饒舌に喋る嘘吐きを見た事がある。目の前にそういうのがいると驚くとともに防衛意識が自身に生じる。

 誰を信じれば良いのかなんて本当に難しい。過去に私に「中国人は信用しちゃいけない」とアドバイスしてくれた中国人も詐欺師であると別な中国人に暴露されていた。行く時々で値段が大きく変わる某老舗標本商二代目は巷で双子説すら出る。"某社の某氏は盗撮動画をSNSで回している"なんて話も回ってくるがテレビとかに出て其の立場でそんなスキャンダルがあるのは大丈夫なのか。

 認知上の問題を考えれば、普通に生きていても人間は"ありとあらゆる方法で虚言を吐ける能力"があるのを知れる。ヒトという生物種の生き様が白々しく見える。自身の疑心暗鬼に嫌気がさす。商売人は信用出来ないとか御用学者は信用出来ないとかの俗説があるのもそういう理由である。

 友人に訊けば似たような話を有名な業者も真顔でやっていたらしい。3メートルもあるキングコブラの話などは流石に虚言過ぎて笑ってしまった。未開拓地域を調べている採集人に部外者が現地話などとは"釈迦に説法"にもほどがある。