あまり見覚えの無いクワガタが2♂出品されてあったのを見つける機会があった。
出所は、過去に記事にしたデータの不安定な古個体群を底値で売られていた同じ通販サイトにて。
https://ivene.hateblo.jp/entry/2023/03/21/010925
https://ivene.hateblo.jp/entry/2023/03/28/212433
古めかしい個体群でデータは"P. serricornis Madagascar"と非常に簡素。しかし当の個体は「マダガスカル産?何やコレ?」と見慣れない外見。
マダガスカル島から見られるProsopocoilus属種は膨大な数量の1普通種が採集されてきているものの、其れとは別種らしきクワガタムシが他で見られた試しは無い。「マダガスカルにこんなのいたっけ、、」、データが駄目そうで悩ましい。。自身で大量に資料を見てきた割に見慣れないクワガタムシが20〜25€だったため、まぁ安価と言えばギリギリ割合安価。
出品画像は低画質だったが、雰囲気的にはP. natalensis hanningtoniの感じもしたので、著しく誤ったデータである可能性も考えられた。"しかしまぁこの値段で即決買取り可能なら流石に悪気も無いだろうし、少しくらいは面白い個体群かも?"と悩みつつ発注してみる事にした。
なお此れ迄に記事にした幾つかの議題は、今回の議題の為に纏めてきた最低限の前提要素でもある。
https://ivene.hatenadiary.jp/entry/2023/01/09/235146
https://ivene.hateblo.jp/entry/2023/03/16/075141
https://ivene.hateblo.jp/entry/2023/04/02/025748
https://ivene.hateblo.jp/entry/2023/04/12/074952
https://ivene.hateblo.jp/entry/2023/05/10/071526
https://ivene.hatenadiary.jp/entry/2023/05/21/201012
https://ivene.hateblo.jp/entry/2023/06/02/075007
此れだけ観察と考察による消去法を繰り返し、漸く自身なりに納得出来る記事を書ける。あと残す作業は実際に原産地に行って調べてみるか、原産国在住の研究者(存在するなら)による知見発表が出れば再現性を検証する事くらいだろうかと考える。
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実物が手元に到着し早速観察してみる。虫個体は2♂とも明色気味、焼けたような湿ったような古本のような香り、関節の脆い硬さ、乾いているにしては色のついた付着物の状態等から、やはり100年くらいは経っている個体と推測した。明るい色合いは、経年劣化によるものか地色なのか判断を付けづらい。
「形はP. n. hanningtoniに似る。でも何となく違うように見える。うーん、、」。1♂だったら奇形かも?と考えていたろうが、2♂揃って変わった型が見られる。データが駄目そうなものであるから、此の2♂をもってしてP. n. hanningtoniの個体変異と考える訳にもいかない。此れは何かある、何かあるが一見しただけでは難しい。しかしネタとしてはかなり面白い。
(大きい方の♂は50.1mm、小さい方の♂でも44.3mmある。大顎や頭部の印象は特異的。なお後述するような考察をしたため、元から付いていたラベルとは別に、自身で書いた考察記述のラベルを記述者氏名と記述年月日を記した上で新たに付し、後の参照者が混乱しないようにしておく)
(謎のProsopocoilus個体群。背面を真上から見た時、頭部前縁の角から頭楯先端迄の距離が比率的に短い、大顎基部背面が平面的で粗い点刻が見られる。また大顎外縁は、近似した型のP. n. hanningtoniに比べて僅かに凹み方が弱い)
(謎のProsopocoilus個体群、大顎斜め後ろから。大顎基部外縁は比較的鋭利に角張る。基部中央や内縁は凹まず平面的で、P. n. natalensisともP. n. hanningtoniのどれとも形の一致率が低い)
タンザニア産P. n. hanningtoniで酷似する型も有るので、其れを対照群に加えて比べてみる。体型は殆ど同じだが、やはり異なる。
(タンザニア産P. n. hanningtoni個体群。背面を真上から見た時、頭部前縁の角から頭楯の突出長が比率において比較的長い、大顎基部背面はやや立体的に凹凸が見られ表面は比較的点刻の隆起が弱く細かく滑らか)
(タンザニア産P. n. hanningtoni個体群、大顎斜め後ろから。大顎基部外縁は比較的丸みがあり、左個体のような鋭利的な個体でも少々丸く尚且つ此れは稀型、殆どの個体は右個体のように膨らんだような型になる)
今回見つけた謎のクワガタ個体群は何なのか、アフリカの何処かにいる系統だったとまでは其の外形から見通しが付く。しかしデータラベルの言うマダガスカルからは此の形のクワガタムシが新たに採集された他例は無い。昔の森林伐採で絶滅した可能性も"他に古い個体群から見た事が無い"から殆ど考えられない。
マダガスカル島は変わった生物層をしているから、昔から広く様々な産地を調べられてきているエリアであり膨大な資料がある。クワガタムシ科に関しては種数は少ない。
そうであるのに、此れ迄こんなに判りやすい形で50mm近いクワガタムシが全く未記載のまま採集記録すらなされていないという事には違和感しか無い。此の要素は"データの記述が本当の事を言っていない"可能性を限りなく高める。
マダガスカル近辺の島々で2種以上のProsopocoilus近縁別種が分布する産地も実態的な記録が無いし、飼育技術など全く無かった頃に2♂同時的に齎されてあろう事から雑種という可能性も殆ど無い。自然界の雑種は人海戦術ですら複数まとまって採集される事は信頼性の高い前例が無く、またアフリカ大陸内で此の形態の雑種を生み出す親種が不明である(P. n. hanningtoniに酷似した雑種を生み出しそうな2既知普通種が混生する例を思いつけない)。
つまり"P. serricornis"の同定は間違いなく誤りだが、ラベルが誤データの可能性も高い。しかしてマダガスカル島か東アフリカのエリアから得られてそうな体長50mmにも達する此の謎のクワガタは何なのか。文献やインターネットの情報では完全に一致する既知資料が全く見られない。
謎のProsopocoilus sp. 2♂個体は、一見したところではタンザニア〜マラウイあたりに分布するP. n. hanningtoniに近似する印象だが、大顎外縁の凹みは僅かに控えめ、顎基部背面は立体的にならずノッペリと平面的でP. n. hanningtoniよりも点刻が粗い、顎基部外縁は肥大や隆起をせずに比較的鋭利に角張る。また頭楯の突出が比較的控えめ。
件の♂個体群がマダガスカル近辺の島々のどれかの産出という可能性も少しばかり考えられる。東アフリカは過去ドイツの植民地であったし、マダガスカル島や其の西側周辺の島々はフランス、東側はイギリス領だった事もあり、今は独立国家を運営するエリアが殆ど。とはいえ此れ等のデータからは参考程度で考えるのみに留め特定には至らない。
2♂とも安定した特徴を複数の部位で持っていたため奇形の可能性は低いと予想される。また2♂とも同時期に採集されたと思しきように1枚のラベルが共有されたデータとされており、他のマダガスカル特産種個体群とのコンタミ状況も全く見られなかった。
♂交尾器形態はタンザニア産P. n. hanningtoniと全く一致し生物種としてはP. natalensisだが、こう駄目なデータでは他から照合出来ない個体の同定は難しい。此の著しく誤りの可能性が高いデータでは分類論文には全く使えない。しかし同定の見通しが付けば産地を予測して実物資料再採集の目処を立てやすくなる。
2♂あるうちの大歯型は同グループでは巨大で、他では全く一致するものを見た事が無かった。アフリカ大陸内の未調査エリアや調査不足の産地で産出したものだったりするのか、いや、其れだったらいくら昔でも"マダガスカル"みたいな明らかに間の抜けた間違いはしまい。
消去法で可能性を絞り、最初は排除していた薄い可能性が一つ再浮上してきた。「もしかして、コモロ諸島産?」。コモロ諸島はマダガスカル島に近く、古くは其の辺り一帯の島々がフランス領だった時代があった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%A2%E3%83%AD%E8%AB%B8%E5%B3%B6
"実際にはマダガスカル産ではないが、集荷地がマダガスカルだった可能性"は考えられる。マヨット島からは別の分類群が多数採集され、今回の2♂に一致するものは再発見されていない。という事はコモロ連合の島々の産である可能性を消去法で絞り込められる。
なお"Prosopocoilus punctatissimus"は以前の記事で述べたように良い資料が揃った状態とは言えない為、コモロ連合側のProsopocoilus属生物集団について此処では"コモロ連合産Prosopocoilus sp."と考える。いずれはコモロ諸島での調査でコンタミの可能性が無い個体群を得る作業が必要不可欠と考えられる。
しかし文献に載るコモロ連合側3島の個体群は大抵が♂ですら35mmにも満たない小型個体で、普通はそんなサイズの離れた大型個体がいるなんて全く想像がつかない。50mmもあるクワガタが"コモロ連合産"という発想が先ず普通出てこない。これまでの文献の何処にも、そういう可能性に一致しそうな前例が示された事は無い。見当違いの可能性が高くはないか悩ましい。
いや、しかし私は偶然にも観た事がある。日本国内で"世界のクワガタムシ"を扱ったパイオニア的存在の故・稲原延夫氏の所蔵品に、明らかに45mmに迫る19世紀末グランドコモロ島産で"Prosopocoilus punctatissimus"と同定される♂個体が有ったのを。あまりに衝撃的な個体だったため撮影して写真も手元にある。稲原氏所蔵のグランドコモロ産1♂は黒化型だが、大顎の形態やサイズは今回の謎クワガタの中歯型♂に酷似し、頭楯の突出が控えめな特徴を含め全く一致率が高い。
今回の謎の2♂は、もしかしてコモロ連合の何処かの島で採集された個体群?、古い資料では遺伝子的な比較が満足に出来ないから遺伝子以外の形質で考えるしか無いが、此の場合は見られる形態で或る程度の事が解る。
ここで残っている問題として"確実にコモロ連合から採集された個体群"がP. natalensisと交尾器形態に差があるか無いか調べなくてはならないが、自身の手持ちに良い"コモロ連合産"データのProsopocoilusが無い。
分類屋の友人を頼り、Bomans氏から送られたという"Prosopocoilus punctatissimus"の同定ラベルが付くコモロ連合産ノコギリクワガタ小型1♂個体を観察させていただいた。結果、外形では大顎基部背面内側の膨らんだ形状と点刻状態、頭楯の突出が弱いという点で特異的。観察した1♂の交尾器はパラメレが微妙に短い印象だったが、P. natalensisの変異外の形態ではなかった。小型♂では他文献でも全く安定しているように前胸側縁後方の突起が見られないが、稲原コレクションに有ったような大きめの♂個体では鈍角ながらやや突出が見られ、其れは今回の謎個体群に一致する。♀の実物観察は満足に出来ていないが、文献やネット上で見られる個体のエリトラ表面の点刻の特徴から判別は容易と考えられる。つまりコモロ連合から採集されてきた個体群はP. natalensisの亜種である可能性が高いとの考察結果も得られた。此の観察からは今回の考察に絶対欠かせない重要な結果が得られた。
つまり、今回主役の謎なノコギリクワガタ個体群はコモロ連合の島々から採集された生物集団と同じ分類群の生物集団である可能性が極めて高い。そうだとすれば、データさえ駄目でなかったなら大変貴重な個体群だったと考えられ、口惜しい気分になる(とはいえ誤データ・誤同定でなかったら売りに出てこない予感はする)。
此れ迄のコモロ連合からは、体長50mmはおろか40mm以上のProsopocoilus個体群が記録された事は文献上でも全く無かった。完全大歯ではないかもしれないが、ここまで顎の発達した♂は他に記録が全く無い。稲原氏の巨大個体を見た時は"此れ程凄まじい資料は他にはなかなか無さそう"ように思えたが、今回調べる事になった2♂は其の予想を遥かに凌駕した個体群である可能性が考えられる。飛び抜けて大きな個体が希少であると、単なる一型すら見当が付きにくいという事を知らしめてくれる良い例でもあると考えられる。
しかしなぜ、コモロ連合から記録される此の系統は小型個体ばかりに偏って掲載されるのか。文献に載る個体資料は少ないが書籍の図示では大体35mm程度で頭打ちになり40mm以上なんて全く想像が付かない。35〜50mmになるならば割合大きな個体が他にも多数残っていそうなものの、稲原氏所蔵だった以外では古い個体群からすら見られない。このギャップが何故有るのか。ここで今回見つけた"誤データらしき個体群"が100年以上経っていそうであった事と、稲原コレクションにあった巨大な19世紀末の採集個体、また領地の歴史的問題、またコモロ諸島での森林伐採の問題を加えて考える。遺伝学をやっていれば、地域変異というのは環境影響による遺伝子以外の働きや遺伝子的作用との連動で起こりうる"フェノコピー"が大きく由来していると分かる。コモロ諸島は森林伐採により、原生林とは異なる生態系に改変されてきた。豊かな自然で大きくなる系統も、劣悪な環境下ではフェノコピーが作用し小型個体ばかりに偏って出現するしかなくなる事も考えられなくはない。コモロ連合産Prosopocoilusも劣悪化した環境下で生存する上で集団が小型化した可能性が高い。また1988年以降で記録が無く絶滅の可能性も危ぶまれるのは、此の歴史的自然史的な変化が見られる事も一つ大きな根拠である。少なくとも19世紀末には巨大な個体が採集されていた。今代の現地画像を調べるとヤシの木が多数あり禿山が並びクワガタがいそうな地域が少ない。大型個体群が多数採集されていた時代は、自然も豊かだった可能性が高い。そしてそういう時代は島に入りにくかった。今回注目した2♂も其のくらいの時代に採集された限定的なものだったのかもしれない。
絶滅しておらず再び此のような大型個体も採集される将来があるかもしれないが、森林伐採はどれくらい抑えられるのか。。
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マダガスカル島から東の列島には原始的なクワガタが見られる一方で、西側のコモロ諸島やマダガスカル島にProsopocoilus群が分布する謎は、以下に引用するURLにて纏められるプレートテクトニクス推定考察から何となくの理解が可能であった(誤字脱字は多少あるが内容の主旨は理解出来る)。
チャレンジャー号は、モザンビーク海峡はもちろん、ケニア、タンザニア沖やマダガスカル島の東海域まで十数ヵ所の海底でボーリングをおこない、海底の堆積物を調べた。
それによると、どのボーリングでも共通して、海底の地層は、第三紀中新世(三千二百万年~二千百万年前)より上の層は、すべて連続して堆積した外洋性の堆積物であった。つまり中新世以後、マダガスカルとアフリカをおけるモザンビーク海峡は、陸上動物の歩いてわたることのできない公海として続いてきたのだ。
ところが、その中世期層の下にはすぐ始新世(五千三百年~三千七百年前)の地層が続いており、その間にあるはずの漸新世(三千七百年~二千二百年前)の地層が、全く見られないのである。
このことは、始新世にあったモザンビーク海峡が漸新世に陸化したことを物語っている。
しかし、この陸化は、いったんはなれたマダガスカルとアフリカ大陸がまたくっついたのではなく、海水の水位が異常に低くなったためにおきた現象のようだ。
この時期、海水面が後退したことは、世界的に知られていることからも、間違いないといえよう。
化石としても現生動物としても有名なマダガスカルの原猿レムール(キツネザル類)も、その時に渡ってきたのかもしれない。
その後、島になったので、ほかの進化した動物たちに圧迫されなかったために、いまも昔のままの姿で生きのびているのである。
島というものは、このようにしばしば原始的な動物群の避難場所となるからだ。
第一章でのべたようにマダガスカル島にふしぎな生物が多いのも、同じ理由によるものだろう。
ウェゲナーが考えたカバの移動も、たまたまできたこの陸橋を渡って行われたのかもしれない。
また他に"漂流物に載って海を渡った"という説が遺伝子考察から推定されるものが出てきているが、生物によって世代交代にかかる期間の長さや変異の速度や頻度が異なり遺伝子情報を軸にした逆算で移動時期を考えるのは難しいと考えられる。あと「漂流物に乗って渡った」可能性も確かに考えられなくはないが、ならば同じ頻度で"特化した後にマダガスカルから大陸に帰った生物種"の存在が見られない事に説明が付きにくい。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6fc2c00e543bfbdee3aae52c1f623d2610a9edf4
(モザンビーク海流は流れが南西へ安定しているようだけど、太古では変化した時代もあった?今の時代の海流方向だと、漂流物が大陸からマダガスカル島に行きつく海流に乗る前に他の海流に呑まれる流れに見える)
とりあえず此れ等の推定は何れも私の考える「Prosopocoilus属の祖先はインド亜大陸が分離・独立後に発生し、白亜紀後期〜始新世の辺りでユーラシアと繋がった後に東西へ拡がった」という仮説に見事に合う。
原始的なLucanidae科固有種群が見られるマスカレン諸島等のマダガスカル島以東の島々は、モザンビーク海峡が繋がるより前に分離していたのかもしれない。マダガスカルは南北を縦断する山脈がある事から、一時的に何等かの地理的隔離で2分していた時期もあり其の時代に原始的なGanelius属等は西へ移動出来なかったのかもしれない。
或いは、Ganelius属等の原始的種群が大陸に戻らなかったのは、古い原生林にしか無い分布環境を好み移動しなかった為で、Prosopocoilus等の大移動が可能なほど適応力が強かった生物種のみがモザンビーク海峡が陸地化した時に出来た森林環境を伝って移動した可能性がありうる。
インドやインドシナ、インドネシアに分布するノコギリクワガタの仲間でも原始的且つ多様なグループがアフリカの地域に分布が見られないのは、インド亜大陸近辺で留まった原始的Prosopocoilus属種群が同地で時代の流れに伴う環境変化に適応するため形態変化と分化を繰り返す一方で、アフリカまで移動した系統は寧ろ形態は比較的変えずに生物に適した産地に分布すべく広がったからと考えられる。
全て合わせて考えれば殆ど理に叶った仮説と考えられる。
モザンビーク海峡が陸地だった事があったとすれば、アフリカに分布するProsopocoilusの形態から、マダガスカル島、マヨット島、コモロ連合3島の順に大陸と分離したと考えられる。漂流物に乗って渡ったならば、ここまで綺麗に連続的な分化をしたと考えるのは難しい。
しかしこれはまた壮大な自然史が脳裏を過ぎる。Prosopocoilusの祖先達はインド亜大陸で発生し、インド亜大陸がユーラシアに繋がって侵入可能になった後、西方のアフリカ大陸へ移動し、またマダガスカル島にも移動し其の周辺で分化した。そういう順序が太古の昔に有ったのではないかと。
【追記】
今回の調査劇は運命的で不思議な事象だった。コモロ連合のProsopocoilusは地味ながら昔から私的に注目していた事(忘れてしまったが多分20年以上前)、奇遇にも不正確な誤データらしき個体群が出品されていて其れに気付けた事(しかもサンプルの数量や型が考察目的には絶妙なものだった事)、稲原氏の特別な個体を観察出来ていた事、分類屋の友人が必要な資料を持たれていた事、アフリカ産の同グループ資料について今回の考察に必要な最低限の資料が手元に集まっていた事。様々な要素からして私にしか書けないような内容の記事と考えられる(※分類学には生物学、論理学などの予習も必要になる)。
どれ一つ欠けていても今回の考察に至れない。しかも此処まで考察した上でも"誤データの可能性が高い資料だと、此のように同定や分類の結論が確定の一歩手前で終わってしまう事の理解"を示すにも良い例だった。
記事を書いていて神的な存在に文章化を促されていたような錯覚すらあったが、錯覚ではないのかもしれない?兎にも角にもアクセスの容易な場に、世に出す必要がある記事との義務感があった。
以前のP. natalensisの記事も記事にする予定にはしていなかったが、今回の記事を書くために急いて記事にした。とはいえアフリカ産Prosopocoilus全般、全ての資料群について、私的な資料が無ければここまで具体的な話が出来なかったし、其れどころか何も気付かないままだった可能性が高いと考えると怖気すら出てくる。
何にしろ環境問題については具体的な例の明示が必要で、また急いてわるい事はない。
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しかし絶滅種といえば、2019〜2020年のいつだったか忘れてしまったが過去の即売会で知らない人達同士がやっていた凄い会話を小耳に挟んだ事がある。「絶滅したら価値が上がるんだし絶滅してくれた方が持ってる側としては嬉しい」「絶滅してしまっても代わりに近縁種を放てば生態系には問題無いと思う。どうせ一般人には分からない。絶滅危惧種は俺たちの商売道具」「絶滅する前に沢山採集しなくちゃコレクション出来ないから焦る」だそうだった。
昨今SNS上の商業系や迷惑系YouTuberなどと其れ等の信者達で流行っている?"変わった価値観?"であれば非倫理的な人間も出てくるリスクは成り行き的にも考えられる。とりあえず"商業主義の成れの果て"では、そういう思想になる人達が現れても不思議は全くない。怖い話である。。
https://twitter.com/stdaux/status/1668097403013169152?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
しかし絶滅した生物種は新しく自然界から採集出来ず、変異を並べたり分類考察をする難易度が異常に高くなってしまうし、飼育累代も生態観察も出来なくなる。また絶滅種が近縁種と同じ生態であるとは全く言えないから代用にもし辛くシンプルに環境破壊でしかない。絶滅種の生物的存在感は現生種に比べて格段に認知度が落ち、人によっては空想生物や他の既知普通種などと判別が付いていない。デメリットだらけである。
"生物分類群が絶滅する事"のデメリットは甚大であり、其れが未発見のものならば生物資料が残らないまま自然界と人々の認知の両方から全く失われる。其れが分からない人達なんていないようなイメージが社会通念的だが、今のSNS社会では不安の芽が出てきている予感が絶えない。。
https://twitter.com/may_roma/status/1662904190501371910?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
一時期に生産され絶版になっただけのレアカードなどと、太古の昔から自然に産出してきた生物分類群がたった数十年から数百年の人為的活動で全く完全に絶滅させられてしまうのとでは、意味合いが途方もなく違うのだが。
https://tsuputon7.hatenablog.com/entry/2017/12/14/140441
絶滅危惧種や人為的絶滅種を"商売道具"と考えている人達には「今を愉しみたい。将来の事なんて知らん」という人達と「そんなに簡単に絶滅せんだろ。いつかまた殖える」との考え方をする人達の複数パターンがあると考えられる。絶滅危惧種は油断していると知らない内に人為的に絶滅した可能性の高い前例が複数あるし、資料を集め遅れた者にとっては悩みのタネであるから、前者は利己的であり後者は暗愚と言える。
https://twitter.com/atkyoudan/status/1667697607462854658?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
規制で利権を貪る人達や、目先の利益の為に将来払う事になる莫大な維持コストを考えもせずに開発産業で環境破壊する人達、そして絶滅種や危惧種売買をお祭り感覚で悦ぶ人達は、実質的には絶滅種数を増やすベクトルの道に向かって呉越同舟しており、彼ら同士の冷戦状況は多数散見されるも何ともシュールな光景に見える。
https://twitter.com/himasoraakane/status/1619935596855853056?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
生きる糧にするにしても、其の供給源が失われないような工夫を先ずしないなら、やはり知らぬ間に絶滅種を増やす事になりそうで不安になる。
https://energy-forum.co.jp/author/iseki/page/13/
https://twitter.com/tibanojirotyou/status/1664885319945297921?s=46&t=6MVYq5Ovmu_MXJ16l5mXpw
"絶滅種"は有史以前にしろ人為的にしろ一定の考察を可能にする資料にはなるが、其れにコレクション性の価値のみに偏って追求する考えは商業主義的独善過ぎる感がある。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/92_14545.html
全ゲノムを解析し復活させようなんて話も理論上出てきているが、自然界に放して良いものか(放す時点での生態系が既に全く適応不可になっていないか)、其れ等が全く自然界固有だった系統と同じ生物性と証明出来るか(不純な研究にならないか)、考えなくてはならない課題は其処にも膨大にある。固有の生態系を持つ原生林を守っていれば考えなくて良い事である。
他方、環境保護活動家を自称しながら歴史的芸術資産を破壊的に扱う政治的パフォーマンスが見られたがアレ等は理性的でなく説得力も蚊帳の外で明らかに逆効果であるし、他にも「環境保護を叫ぶなら、その土地を買ってでもして守ってから言え」みたいな主張をする人達を見かけた事もあるが、そんな僅かな人達にしか出来なさそうな環境保護方法は寧ろ環境破壊活動をし易くするものでしかない。アレ等の軽薄な活動は環境破壊サイドによるスケープゴートの応用ではなかろうか。
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/monalisa_news_20220531
過去日本国内で大ヒットした創作作品でも、そういう"自然と人の関係"について考察を促す明瞭な示唆が多数あって参考になる。
https://ff15soku.2chblog.jp/archives/36618771.html
【近況】
白亜紀のクワガタ?らしき甲虫が入ったミャンマー琥珀について5例話が入ってきたが、いずれも状態が微妙で科同定に足る資料では無かった。大顎が良く発達していて多分クワガタなのかもしれないけれど、やっぱり確信出来ないと資料にはしづらいというものが複数あった。おそらく同定困難でストックされていたものと考える。
http://burmiteamberfossil.com/index.php?m=content&c=index&a=show&catid=58&id=734
(こういう感じの)
同定が可能か否か、真偽の判定が可能か否かで、資料の価値は全く異なる。
そう考えるとやはりProtonicagus taniの原記載はレベルが高い。"其の産地その時代"から初めて"科階級"の同定が可能な生物遺骸に学名を付ける事は記録的な意味がある。「何度読み直してもクワガタムシ科化石種記載についてProtonicagus taniだけは、記録的意味以外の記述や学名の語源説明まで完璧に科学的な記載論文になってるんだよなア」と不思議な気分になる。他の怪しげな既知分類群学名の記載を褒める言い回しは皮肉だったのだろうか。