iVene’s diary

世界のクワガタ観察日記

クロサワオニクワガタの色々

 クロサワオニクワガタ:Prismognathus kurosawai Fujita et Ichikawa, 1986はタイ北部ドイ・インタノン国立公園の標高2300m辺りから見つかっており、現在のタイ国内の産地では保護規制が敷かれ観察が難しい。

 原記載にて"The specific name of this new lucanid was dedicated to Dr. Yoshihiko KUROSAWA who is the best specialist of Asian lucanid beetles."、つまり種小名は黒沢良彦博士に献名された事が解る説明がなされる。

 原記載では和名を"キバナガツヤオニクワガタ"と記述されるが、今では"クロサワオニクワガタ"と呼ばれる事の方が多い。

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(近似する別種が幾つかあるが、クロサワオニは比較的光沢が強く顎が短い形態比率をしている。タイに分布するオニクワガタ属種は今のところクロサワオニ以外には見つかっていない)

 此の顎形態のオニクワガタはEligmodontus Houlbert, 1915の属に分類された事もあり、雌雄共に頭部や顎程度だが特化が安定した発生形態のグループだから亜属名として採用しても良さそうと私は考える。

 また雲南省南西部の隴川県から見つかっている中華鍬甲3掲載の"Prismgnathus sukkitorum Nagai, 2005"と同定された個体等はクロサワオニクワガタに酷似しており実際にはそうなのかもしれない(記述と他図示から読み取れるように"dissected"な個体ではないらしく交尾器の図示が無いが、研究が進歩するのを期待したい)。雲南省の隴川県はミャンマー領を挟むが、タイのドイ・インタノンのちょうど北辺りにある。スキットオルムオニクワガタは基準産地が隴川県から遠く離れる。既知2分類群間の♂の差異は主に頭部の眼角で見分けられ、交尾器は陰茎部のサイズが大きく異なる。

 インドシナの地域は巨大な構成をする山塊が疎に点在し、その山塊ごとに生物層が特化している例が多い。広域のなか割と高標高の様々な場所で点々と分化があり、そんなに個体数が集まらない種群は調査は大変である。

 しかし生物種が自然界でどのように分化したのかを類推するなど、そういった事を学べる意味では最も面白い分類群の一つ。

【References】

Fujita, H. & Ichikawa, T. 1986. A new species of the genus Prismognathus from Northern Thailand. Ueno S.I.(ed.) Entomological Papers Presented to Yoshihiko Kurosawa on the Occasion of His Retirement. Coleopterist's Association of Japan, Tokyo:1-342 (177-179). http://coleoptera.sakura.ne.jp/special-publication/Y-Kurosawa-papers1986.pdf

Nagai, S. 2005. Notes on some SE Asian Stag-beetles, with descriptions of several new taxa (4). Gekkan-Mushi 414:32-38.

Huang, H., and C.-C. Chen. 2017. Stag beetles of China, Vol. 3. Formosa Ecological Company; Taipei, Taiwan. 524 p.

Houlbert, C. 1915. Descriptions de quelques Lucanides nouveaux. Insecta, revue illustree d’Entomologie, Rennes 5:17-23.

【追記】

 一般的な観察として多い"虫の形を俯瞰するのみ"では実際には考察に不足がある事が多い。産地データに関する等高線地図や航空写真地図を並べてみると"どういった分布や特化をしているのか"理解が進む。

 シンプルな地図でも河川や峰々の配置が分かる事もあるが、少しでも詳細に進めて考えてみれば新たな感動が其処に待っている。

 しかしオニクワガタ属は規制の有無に関係無く認知度の低い種が多い。